続・自分レスキュー その6 (素直な心の)

チエコさんとの付き合いは、ヘアカットをしながら、世間話をする、いつもの関係に戻りました。ただ、あれから、メンタルケア後の私の生活が、どんな風に変化したかを語り合うのも楽しみのひとつになりました。

ある日、ヘアカット代を払うとき、チエコさんが、私にこう言いました。

「同じケアをしても、癒しに成功できない人もいるよ。あなたが心を開くことができたのは、あなたが素直な人だから。」

「素直?」一瞬、耳を疑って、驚いた私は、もう一度聞き返しました。

すると彼女は、どうしてそんな当たり前のことを聞くのか、という顔でくりかえしました。

「そう、あなたは、とっても素直な人だけど?」と。

生まれて初めて言われた言葉でした。幼いころ、あんなにも、両親から「素直さのない子」と疎まれ、「素直な心の子にする童話」という本まで与えられた私でした。

「すなお」ってなん?「すなおなこ」って、どうすればなれるん?

遠い昔、子ども心に、ずっと考え、考えれば考えるほど、「素直」から遠ざかって行った私でした。いつか、そんな風に人から言われる夢をあきらめ、忘れ去った50年後に、はじめて「素直な心の人」という言葉を、人に言われたのでした。チエコさんは、その言葉をかけられた私が、どれほど新鮮な喜びに包まれているのかに気づいていない様子でした。

探していたものは、探すのをやめたときに見つかることもあるのです。メーテルリンクの「青い鳥」のラストシーンの意味も、ようやくわかったような気がします。

それはまるで、かつての私の人生の宿題のようなものが、さらさらと溶けてなくなっていくような瞬間でした。

幼かったころの私には、世界は「わからないことだらけ」でした。誰にも聞けない、恥ずかしい疑問を、わからないままに、心に溜めて生きてきました。  そんないくつかの疑問が、あるとき、ふっとわかるときが来る。だからこそ、長く生きるのは、とても楽しいことだと、私は心から思うのです。幼くて、若くて、そして苦しい人に、教えてあげたいのです。

「生きてみてください。長く生きていれば、やがて、素晴らしく、心が晴れるときが来るから。人生の謎が、解ける日が来るから。」と。

 

2 Replies to “続・自分レスキュー その6 (素直な心の)”

  1. 自分レスキューを一気に読んで、父を思い出しました。父の親は父が幼いころになくなり、兄、姉がいて、それはそれはわがままに育ったからあんなに横暴で優しさがない、とずっと母は私に言っていたのです。父とは生い立ちについての話などしたこともなく、もう今さら聞くすべもないけど、あんなに人との交流を嫌っていたのにはやっぱり幼いころからの何かしらコンプレックスがあったんだろうなあ、なんて・・・。その頃はわからなくても長く生きているとふとわかる瞬間が来る、そのくだりに「うん、うん。確かにそうだ!!」とうなずきました。

    1. このごろは、時間も空間もGoogle earthのように『引き』で見えるようになりました。誰もが その時代時代の空気に翻弄され、支配され、それぞれの息苦しさを生きた人同士なのだと感じます。たとえそれが、私に害をなす存在であってもです。「わかる」というのは長く生きてきた自分へのご褒美ですね。「ゆるす」という感情には、まだ、たどりついていないのですが。

      emiさん コメントありがとうございます。わかってくれる人の存在に、こころは温められるものですね。

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