光明皇后という人のこと

今日は古紙回収の日でした。思いきってたくさんの本を処分しました。

最近、電子書籍を利用するようになり、文字を大きくして読むことができる機能に「これなら老眼にも優しい」と安心しました。好きな作家の「文学全集」が、まさかの99円で手に入ることにも気づき、その手軽さと安価さに愕然として、「ああ もう時代は変わったんだ」と思いました。永年つきあった本の数々を、その黴臭い埃とともに手放すことにした私の背中を押したのは、電子書籍でした。本を断捨離したことで、家の中も頭の中も、ずいぶんと すっきりしました。

それでもどうしても、手放すことの出来ない本があります。子ども時代から好きだった児童書「お話宝玉選」です。

“光明皇后という人のこと” の続きを読む

「怒らない」と「怒る」の間。

「怒る」ことは、とても疲れるから、そんな感情そのものを手放したい、と先日つぶやきました。でも、考えた末、やっぱり「怒り」を手放すことはできません。

私の中にある「怒り」に「そこにいたんだね。無視して悪かったね。捨てたりしないよ。そこにいていいよ」と、今日の私は呼びかけます。 “「怒らない」と「怒る」の間。” の続きを読む

 疲れたこころを   

庭の蝉の声は、いつのまにか秋の虫の声に変わりました。ベルに倣って、耳をすませて、季節の変わり目に心を寄せています。そうすると、空気の感触、空と雲、世界のひとつひとつが「もう秋だ」と言ってるような気がします。

最近、朝の目覚まし時計の音を、「鳥のさえずり」のものに変えました。一日のスタートは森の中の響きではじまります。雨の降る日は、目を閉じて、しばらく雨の音に耳を傾けるようにしています。そうするとたいてい、眠りに落ちてしまっています。私は だいぶ疲れているようです。

“ 疲れたこころを   ” の続きを読む

最悪の夜の後ろに

雨の夜、クルマのエンジンをかけます。駐車カードを機械に入れ、指定された金額をコインで投入するタイプの有料駐車場です。お腹がすいていたから、運転しながら食べようと、コンビニでおにぎりとお茶を買いました。雨の夜の高速道路は霧のために通行止めになってしまいがちです。スマホで確認すると、さいわい今夜は速度規制があるだけで、なんとか通れそうです。この夜の道を今から一時間半 運転して家まで帰らなければなりません。

“最悪の夜の後ろに” の続きを読む

犬と暮らせば   その8

犬が人間の7倍のスピードで年をとることは知っていました。でも、心のどこかで ベルはずっと私たちの傍にいてくれる気がしていました。私が老人になった日にも、よぼよぼの老犬になったベルが、まだそばにいてくれるような、そんな未来を思いえがいていました。そんなはずはありえないことに、私は目を向けていなかったのです。

“犬と暮らせば   その8” の続きを読む

『ご め ん ね 記念日』

夏休みではありますが、近所の子ども達の姿を見かけません。特に最近の夏は、暑すぎて、子どもたちが外で遊ぶのは危険なのでしょう。

家の中で過ごす子どもたちを食べさせるのも、学童保育に行く子どもたちにお弁当を作るのも、材料を買い出しに行くのも大変だろうと思います。作った瞬間から腐り始めそうな この季節のお弁当、買い物帰りの袋の中で溶けはじめる冷凍食品やアイスクリーム、夏の台所はサバイバルですね。

「子どもの夏休みが、つらい」というお母さんたちの声をネット上で見かけると、私は、あの夏の日々を思い出します。

特に、今日は、8月16日、私にとっては「ごめんね記念日」だからです。

“『ご め ん ね 記念日』” の続きを読む

犬と暮らせば  その6

2005年、9月下旬のことでした。あの頃はまだ、この辺りは住宅地ではなく、窓を開けると、田んぼを渡ってきた風が、心地よく家の中を通って吹き抜けていきました。長い夏が終わり、一番心地よい季節を迎えていました。

私は真夜中に異様な夢を見ていました。悪魔的な奇妙な小動物が、なんとも言えない声を出し、うごめいている夢でした。うなされるように目を醒ましても、どこからか、とぎれとぎれに、奇妙な声は止むことなく続いているのが聞えてくるのでした。

「なんだろう」と思って、声のする方へ寝ぼけたまま近づいていきました。奇妙な声は、ベルのいる犬舎の方からきこえてくるようでした。その声は、異様に大きく、よく響く声でした。暗闇のなかで目をこらすと、声もなくベルが体をこわばらせて、おびえているのがわかりました。

“犬と暮らせば  その6” の続きを読む

犬と暮らせば  その5

暑い日に、通り過ぎていく今日のような夏の雨が好きです。濡れたアスファルトから立ち上る夕立の匂いと、目まぐるしく変わる空模様、急に暗くなった空に稲妻が走り、遠くから近づいてくるカミナリの音を聴くと、いつもベルのことを思い出します。ベルが亡くなって、もう7年もたつというのに です。

“犬と暮らせば  その5” の続きを読む

犬と暮らせば  その4

2003年の春、長いこと子どもたちが欲しがっていた 黒に白いマフラーを巻いた、牝のボーダーコリー犬を迎えました。子犬をペット店から連れて戻ったときの気持ちは、産後自分の赤ちゃんを連れて家に戻ったときの気持ちによく似ていました。とてもデリケートだから大事にしないと病気になったり死んでしまったりするでしょう。環境の変化で夜泣きをしたり、粗相をしたりもします。ドックフードにミルクを混ぜて、やわらかくして食べさせると、よく眠って、よく出して、よく鳴きました。家族会議で、「ベル」と名付けることを決めました。そのころ家族で繰り返し見ていた「美女と野獣」の主人公の名前でした。

“犬と暮らせば  その4” の続きを読む

犬と暮らせば  その3

海辺の町に引っ越して、しばらくしたころのことでした。小学校3年生の私にある日、父は おつかいを命じました。「ご近所さんに大切な書類入りの封筒を持っていく」というお役目でした。そのお屋敷のご主人は、このあたりで有名なお医者さんで、保健所の所長を兼ねている人でした。

その家には、巨大な犬が飼われていました。父は実は自他ともに認める犬嫌いでした。子どもの私の方が犬への恐怖心がないから、却って大丈夫だと考えたのでしょう。「あの家には大きな犬がいるけれども、つないであるから大丈夫、吠えるだけだから 怖がらないで呼び鈴を押して、この封筒をわたしてきなさい」そう父に言われて、私はひとりででかけて行きました。

“犬と暮らせば  その3” の続きを読む

犬と暮らせば  その2

切り株のふもとで、群れて遊びまわる子どもたちの、一番うしろにくっついていた幼いころのことでした。子どもたちは「秘密基地」で、どこかから来た野良の子犬にえさをやり手なずけて内緒で飼い始める、という遊びを覚えました。その子犬は茶色の雑種で、子どもたちはその犬を「ペス」と呼んでいました。やがてその子犬の存在は、親たちの知るところとなり、ペスは、我が家の住んでいた長屋の屋外に括り付けられました。子どもたちはみんな食べ物を持ち寄り、その子犬をかわいがっていました。

“犬と暮らせば  その2” の続きを読む

犬と暮らせば  その1

「いちど犬を飼ってみればいいよ」その頃働いていた職場の、先輩の女性が、優しい口調で私にそう言いました。「そしたらもう 犬を『怖い』と思わなくなるから」と。

そのとき、私はその人とお弁当を食べながら「子どもたちが犬を欲しがるけれど、私 犬が怖いんです」と語っていたのです。

“犬と暮らせば  その1” の続きを読む