やさしくありたければ

最近 若い人からこう言われました。『会社の後輩ができたのは嬉しいけど、これから先は後輩が増えていくばかりで、自分はベテランになるんだと思うと不安になります。後輩にきつくあたるような先輩には なりたくないんです。』と。

入社して数年たつと先輩になります。最年少として大目に見てもらい、育ててもらっていた自分にはもう戻れません。これから先は新入社員に仕事を教えて 育てる側に回らなければならない。もしも後輩が優秀なら 嫉妬や焦りを感じるかもしれないし、逆にそうでなければ、フォローのために時間を奪われイライラしてしまうかもしれない。

そんな複雑な心境を乗り越えて、やさしくありたい。寛容で冷静な先輩でいたい、それが多くの若い人の共通課題なのかもしれませんね。気持はわかります。

私は、今年勤続35年目となりました。なんと職場で最年長です。上司も全員年下となり、チームの仲間はみんな10歳以上離れていて、いわば私1人がガリバーのような状態、なかなか孤独な存在です。

後輩に対する嫉妬や焦りはもはやほとんど感じないのですが、この頃は 一緒に働く年下の同僚たちが、私に対して気をつかってくれていることを感じます。彼らが仲間同士で考え方の違いをぶつけ合う場面でも、私はなんだか参戦せず、特別枠の オブザーバーのような立ち位置にいるのです。

後輩を育てようなどと思って距離を詰めていくこともしないように気をつけています。ガリバーのような私から距離を詰められた人はどんなに怖いだろう ということに気づいたからです。職場全体のシステムについて、変だなと思うことを変だ変だと主張することも、最近ぱたりとやめてしまいました。

『私とやり方の違う人も沢山いるんだなぁ』と思うことにしました。『私のやり方が正しい』という考え方をやめたのです。私とは違う考え方、感じ方を受け入れ、一回立ち止まって考えたいのです。もしかしたら、こだわるほどのことではないことにこだわっているのかもしれないし、私の考えはすでに旧いのかもしれないからです。

いくら経験があろうとも、やがてこの仕事を引退する私は これからの現場を担う人たちに口を出せる立場ではないのでしょう。

せめて職場の負担にならぬよう、存在感を半透明にして日々の仕事をこなしていこうと思います。それが最近の私の気分です。

さて 最初の話題『後輩に対して寛容な先輩になるには』に対する私からのアドバイスはこうです。

それは、人に対して寛容になろうとする前に『まず自分に対して寛容になること』。「良い人」と人から思われるよりも、まずは自分にとって「良い人」であることの方が大切なのです。

あなたが有能であればあるほど、『自分ばかりが損をしている』と言う働き方に追い込まれてしまうのが この社会の常ですよね。『私ばかりが なぜこんなにも割を食って残業ばかり?』と疑問に思うこともあるでしょう。

人さまを相手にするお仕事は、ほとんどが『感情労働』となります。自分の感情を削り取られるような、人の心を気遣って神経をすり減らすような日々を重ねていることでしょう。誰かに「怒り」を投げつけられ、不当に自分の心を踏み荒らされたまま、一日を終えることもあるでしょう。

けれど だからこそ 自分だけは自分の味方になって、出来る限りの『自分孝行』をしてあげて欲しいのです。

休めるときには休みをとって、自分をいたわり、自分のための時間を過ごす。好きなものを食べたり、旅をしたり観たかった映画を見たり、美容や健康に時間とお金をつかったりしてほしいのです。

『ああ幸せ。ありがとう給料!』と言いたくなるようなプライベート時間を過ごせたら、少しくらい職場でイラッとしても『まぁいいか』と思うことができるのではないでしょうか。

休暇シーズンには、できるかぎりまとまった休みをとって、どうかリフレッシュしてください。小さなお子さんがいらっしゃる方は、保育園に預けて仕事にいくふりをして、一日でもいいから「自分孝行」の日を確保してください。

『溺れている人は溺れている人を助けることはできません*』と言った人があります。誰かに対してやさしくなりたければ、まずは自分を満たすことが、始めの一歩なのだと私も確信しています。

やさしくありたい。あなたがそう思うように、私もやさしくありたいです。誰に対してかというと、まずは自分に対してです。いっさいの罪悪感をもたずに自分孝行しませんか。どんなにすぐれたデバイスも、充電が切れたら死んでしまいますよ。

*アラン・コーエン

 

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