サヨナラだけが

桜の季節です。

「ハナニ 嵐ノ タトヘモアルゾ、「サヨナラ」ダケガ 人生ダ」(井伏鱒二・干武陵『勧酒』)の詩にあるとおり、桜の季節は、同時に別れの季節でもありますね。

大切な同僚が、年度替わりで去ってしまったり、自分自身が転勤で環境がかわったり・・・そんな不安定な季節です。

私も同じです。一年間、いや数年間、同じ使命に向かって、知恵を力を出し合って、一緒に乗り越えてきた仲間が、いなくなります。

一人では、決して乗り越えられなかった、仲間がいたからこそできた仕事ばかりです。作って来たチームがほどかれてしまい、四月から、また見知らぬ人と出会いなおさなければらなりません。

これは、ちょっとしたダメージであり、大きなストレスです。「年をとると、それが乗り越えられない」という人もいます。もちろん、若い人でも、子どもたちでも、それをきついと感じるこころは同じかもしれません。

春休みの子ども達は、不安です。わくわくもあるかもしれませんが、慣れ親しんだ先生や友達との結びつきを、一度ほどかれて、誰ともつながらない、ふわふわとしたひとときを過ごします。

誰のクラスの生徒でもない、どこの学校の所属でもない、もしかしたら、糸の切れた凧みたいな不安定もしくは自由をにぎりしめている。そんな子どもたちが、日本中にあふれる、それが桜の季節です。

子どもも、それを取り囲む大人自身も、学校や職場や地域で、不安定な時期を過ごしています。この時期、自分や家族の環境が全く変わらないという人はほとんどいないのではないでしょうか。

「ああ 寒いほどひとりぼっちだ」これも、井伏鱒二の言葉です。

人はこの季節、花冷えもあいまって、歯の根が合わないほどの孤独を感じることもあるんです。

思いがけない別れが、人をそうさせるのでしょう。

うつむいて道を歩く小学生も、制服を買って帰る中学生も、新しいスーツを着た若者も、どこにも行かない人々も。

不安なのは、みんな同じなんですね。あなたも、わたしも、あのひとも、そのひとも、みんなです。むしろ、すがすがしいほど お互い様です。

サヨナラだけが人生 かもしれません。でも、あなたと働けてほんとうに良かった。そんな風に思える仲間と出会えたことのしあわせを かみしめたい、桜の季節です。

 

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