うまれてからの一番ふるい記憶をたどると
そこにはいつも「きりかぶ」がありました。
一面に広がる田んぼの向こうに、空にむかってたちあがる
「切り株の形をした山」がそびえていて
「きりかぶ山」と呼ばれていたのでした。
私の生まれた、九州の内陸部の小さな田舎町には
こんな伝説がありました。
昔々、ここの町の真ん中に、大きな「くすのき」があり、
あまりにも大きすぎた、その木のせいで、町は暗くて、作物も育たない、
人々は困り果て、大男に頼んでその「くすのき」を切り倒した。
大樹が切り倒されると、町は急に「夜明け」を迎えたように明るくなった。
幼かった私の、目の前にそびえる「きりかぶ山」はそのときの跡だとか。
私は、半信半疑でその山を見上げていました。
来る日も来る日も、目にとびこんでくる「きりかぶ山」を見上げるたび
心のどこかに、半透明の大樹がそびえ、半透明の巨人が視界をよぎったのでした。
原風景 という言葉を聞くたびに、私はあの景色を思い出すのです。