光明皇后という人のこと

今日は古紙回収の日でした。思いきってたくさんの本を処分しました。

最近、電子書籍を利用するようになり、文字を大きくして読むことができる機能に「これなら老眼にも優しい」と安心しました。好きな作家の「文学全集」が、まさかの99円で手に入ることにも気づき、その手軽さと安価さに愕然として、「ああ もう時代は変わったんだ」と思いました。永年つきあった本の数々を、その黴臭い埃とともに手放すことにした私の背中を押したのは、電子書籍でした。本を断捨離したことで、家の中も頭の中も、ずいぶんと すっきりしました。

それでもどうしても、手放すことの出来ない本があります。子ども時代から好きだった児童書「お話宝玉選」です。

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犬と暮らせば   その8

犬が人間の7倍のスピードで年をとることは知っていました。でも、心のどこかで ベルはずっと私たちの傍にいてくれる気がしていました。私が老人になった日にも、よぼよぼの老犬になったベルが、まだそばにいてくれるような、そんな未来を思いえがいていました。そんなはずはありえないことに、私は目を向けていなかったのです。

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『ご め ん ね 記念日』

夏休みではありますが、近所の子ども達の姿を見かけません。特に最近の夏は、暑すぎて、子どもたちが外で遊ぶのは危険なのでしょう。

家の中で過ごす子どもたちを食べさせるのも、学童保育に行く子どもたちにお弁当を作るのも、材料を買い出しに行くのも大変だろうと思います。作った瞬間から腐り始めそうな この季節のお弁当、買い物帰りの袋の中で溶けはじめる冷凍食品やアイスクリーム、夏の台所はサバイバルですね。

「子どもの夏休みが、つらい」というお母さんたちの声をネット上で見かけると、私は、あの夏の日々を思い出します。

特に、今日は、8月16日、私にとっては「ごめんね記念日」だからです。

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犬と暮らせば  その5

暑い日に、通り過ぎていく今日のような夏の雨が好きです。濡れたアスファルトから立ち上る夕立の匂いと、目まぐるしく変わる空模様、急に暗くなった空に稲妻が走り、遠くから近づいてくるカミナリの音を聴くと、いつもベルのことを思い出します。ベルが亡くなって、もう7年もたつというのに です。

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犬と暮らせば  その4

2003年の春、長いこと子どもたちが欲しがっていた 黒に白いマフラーを巻いた、牝のボーダーコリー犬を迎えました。子犬をペット店から連れて戻ったときの気持ちは、産後自分の赤ちゃんを連れて家に戻ったときの気持ちによく似ていました。とてもデリケートだから大事にしないと病気になったり死んでしまったりするでしょう。環境の変化で夜泣きをしたり、粗相をしたりもします。ドックフードにミルクを混ぜて、やわらかくして食べさせると、よく眠って、よく出して、よく鳴きました。家族会議で、「ベル」と名付けることを決めました。そのころ家族で繰り返し見ていた「美女と野獣」の主人公の名前でした。

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犬と暮らせば  その3

海辺の町に引っ越して、しばらくしたころのことでした。小学校3年生の私にある日、父は おつかいを命じました。「ご近所さんに大切な書類入りの封筒を持っていく」というお役目でした。そのお屋敷のご主人は、このあたりで有名なお医者さんで、保健所の所長を兼ねている人でした。

その家には、巨大な犬が飼われていました。父は実は自他ともに認める犬嫌いでした。子どもの私の方が犬への恐怖心がないから、却って大丈夫だと考えたのでしょう。「あの家には大きな犬がいるけれども、つないであるから大丈夫、吠えるだけだから 怖がらないで呼び鈴を押して、この封筒をわたしてきなさい」そう父に言われて、私はひとりででかけて行きました。

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犬と暮らせば  その2

切り株のふもとで、群れて遊びまわる子どもたちの、一番うしろにくっついていた幼いころのことでした。子どもたちは「秘密基地」で、どこかから来た野良の子犬にえさをやり手なずけて内緒で飼い始める、という遊びを覚えました。その子犬は茶色の雑種で、子どもたちはその犬を「ペス」と呼んでいました。やがてその子犬の存在は、親たちの知るところとなり、ペスは、我が家の住んでいた長屋の屋外に括り付けられました。子どもたちはみんな食べ物を持ち寄り、その子犬をかわいがっていました。

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イギリスへの旅の話4    大学に住む幽霊

ケンブリッジは街全体が大学でした。行き交う学生たちは、毛玉の浮いたセーターを着て、ものすごく古い自転車の荷台に本をくくりつけて走り抜けて行きます。イギリスでの暮らしに少し慣れた3月初旬、私はその街を訪ねたのでした。700年以上のこの大学の歴史を、生い茂る樹木の巨大さが物語っていました。

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イギリスへの旅の話3

11歳のカレンは、落ち着いた性格の、優しい目つきの女の子でした。サラサラの金髪を私にあずけて「編み込みにして」とせがみ、 丁寧に編んであげると、合わせ鏡で、自分の後姿をながめて、うれしそうにしていたのを思い出します。

9歳のデボラは、巻き毛で、遠視用の眼鏡をかけていました。ひょうきんな性格で、サッチャー首相のものまねが得意でした。マイケル・J・フォックスが大好きな女の子でした。

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イギリスへの旅の話2

私が、初めての海外となるイギリスに向かったのは、1986年の春でした。初めてのパスポートを取り、初めてのスーツケースを借り、初めての飛行機に乗って成田空港に行き、初めての海外への航路に乗ったのです。20歳でした。

飛行機は、キャセイパシフィック機でした。バーレーンで給油したので、23時間かかる長旅になりました。地球の回転に逆らって飛ぶということが物理的にどういうことなのか、よくわからないながら、窓の外の雲海を夕日がいつまでも照らしていたような気がします。(逆に帰りは、短いうちに何度も夕日と朝日が訪れていたような記憶があります。)

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遠くに行きたい 小3一人旅 そしてイギリスへ1

ずっとずうっと遠くへ行きたい

こどものころから、「ここではないどこかへ行きたい」と、願う思いが心のどこかに、いつもありました。

初めて一人旅をしたのは、小学校3年生の秋でした。一人でバスに乗って、母方の親戚の家に一人で泊まりに行きました。

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1984年 あのころの大学の空気

1984年の春のことでした。

私は大学生になりました。地元の大学でした。いよいよ受験校を決めるというときになり、突然親からすすめられたその大学は、それまで希望していた他県の大学とはちがい、山のなかにあって、周囲にほとんどなにもなく、華やかさのない大学でしたが、私は言われるまま進路希望を変更していました。親に逆らうという発想自体がなかったからです。

一度きりの受験が私に許されたのは 授業料も安く、実家から仕送りを受けずに卒業する友人もいたほどの、苦学生にも優しい大学でした。  “1984年 あのころの大学の空気” の続きを読む